城を作り上げた大工の悲劇

嘘のような真実

皿屋敷に関してはあくまで脚色されたフィクションの怪談話だが、嘘のようで本当のような話も姫路城のエピソードとして残されている。その話とは、姫路城の天守閣に纏わるものだ。天守閣を建造することが出来るとなれば、おそらく当時の大工からすれば誇りと傑作の域に達していなければ任されない大役だったはず。そして見事創り上げる事に成功すればそれだけで業界として華々しい展開になることも十分考えられる。しかしながら、大名ないし将軍ないしが住むことになる天守閣の建造だからこそ失敗することは出来ないというプレッシャーも掛かってくるはず。それも半端では無い、もし万が一にも失敗などして城代の身に危険が及ぶようなことになれば、確実に打ち首が待っている。

仕事の失敗は誰でもあるが、その時代にしてみれば失敗は死を意味していることになる、特に武士などが住む住まいの建築では間違いなど言語道断であり、それこそ現代のような法律といったモノで守られることなく、責を押し付けるとして簡単に人一人の命程度殺せた時代だった。現代からすれば考えられないが、罷り通っていた時代も日本にはあったことを思いつつ話を進めていこう。

今でこそ世界遺産として素晴らしいと賞賛されている姫路城だが、それを建築したのは誰かという話も気になるところ。それなりに有名なのではと思うが、実はこの話をして行くと最後に待っている悲しい結末を目撃することになる。また実際に姫路城には建築当初に見られていたある1つの歪みが発生しており、それを修復するためにも改修工事が行われ、雄大な姫路城を見上げることが出来る。それもこでも建築として少々心配な点を改修して行くことで為しえた成果といえる。その改修工事を辿っていくと、一人の大工が浮かび上がってくる。

大工棟梁として人生をかけた

先に述べておくと、これは史実として伝わっている事実の話だということを念頭に話を進めていく。姫山を拠点とした城を建築するため、初代姫路城の城代にしてあらゆる武人達に鞍替えしていったと紹介した池田輝政氏は、姫路城を建造するためにある一人の大工に命令した。『桜井源兵衛』、この大工にとって天守閣の建造は名誉であって、誇りでもあった。彼が大工として持てる限りの力を出し切るため、彼にとって最高傑作ともいうべき作品を作り上げるため、9年という永きに渡って無事に完成させ、無事に大役を果たす。この期間、源兵衛は寝ることさえ惜しみつつ、どうしたら自分として最高といえる作品を作り出すことが出来るのか、念入りに考えながら作業に取り掛かっていた。城壁が白いのもこの源兵衛のアイディアによるところ、持てる限り全力を出し切るため、大工として以前に人間として可能性を最大限引き出して作業に取り掛かっていた。

ようやく完成へと至った姫路城だが、完成した城郭の様子を見て源兵衛はどこか奇妙な違和感を覚える。その違和感とは、何故か城が何処となく傾いているような気がしたのだ。ただそのことは作業をしている中でも気になっており、誰にもその不安を告げる事無く押し殺しており、またそう感じるのはきっと気のせいだと自分に言い聞かせていた。折角自分が作り上げた最高傑作だと、少し疲れているからこれだけ傾いているんだと思い込んで、猜疑心に駆られながらも自分の作り上げた最高傑作なのだからと、きっと生涯一度として任されることのない大役だから神経質になっているんだと思っていたが、彼の不安は現実のものとなる

真実を目の当たりにして

9年という歳月をかけてようやく完成を見た姫路城を、源兵衛は妻にも見てもらいたいと思い、夫婦揃って特別に天守閣に登ってその様子を見ることとなる。妻は自分の夫が作り上げた芸術作品を誇りに思い、その感慨深い感情を告げるのだった。妻の言葉に源兵衛は胸を撫で下ろす、自分の思い過ごしだったんだと思っていたが恐れていた現実が源兵衛の前に突きつけられる。

ふと妻が感じた違和感、それは天守閣が何処となく曲がっているという1つの事実だった。この時代、男性と女性では仕事に対するプライドの持ち方は異なっていた。特に大工という職人気質の高い仕事に女性が口を出すことそのものがナンセンスだった、まして自分が大工人生をかけて作り上げた傑作が欠陥があったこともそうだが、何より女性の目からでも分かるくらい傾いているという現実に打ちのめされてしまう。

絶望のドン底に叩きつけられた源兵衛が取った行動は、自らの大工道具であるノミを口にくわえて天守閣から飛び降りてしまった。本当の意味で生涯をかけて作り出した最高傑作となってしまい、命がけで作り上げた一人の棟梁が迎えた壮絶な最後だった。

事実は小説よりも奇なり

源兵衛の死は直ぐに伝播され、壮絶な最期を遂げた大工の死として『東に傾く姫路のお城、花のお江戸を恋しがる』といった歌が創られるきっかけとなった。こうしてみるとこの話も脚色されているのではと思うが、まさかの事実が判明する。それは昭和の大修理において、実際に東南へと傾いている事が発覚したのだ。その原因となったのは東南の石垣が天守閣の重さに耐え切れずに沈んでしまったという、物理的な原因も発覚する。

つまりだ、この話は全て事実であり、そして源兵衛という大工がまさしく世界遺産といえる最高傑作を完成させ、傾きもあったために自殺してしまったことも、全て現実に起こったことだという裏付けをしたことになる。ただ何処までが事実なのか、今となっては知るのは難しいかもしれない。しかしながら確かにこの城を作り上げた大工がいたこと、そしてその大工の存在がどうして浮かび上がってこないのかというのも、ある種消されてしまった出来事といえるかもしれない。

天空の白鷺こと、国宝 姫路城とは

日本では国宝、世界では世界遺産として認定されている伝統文化遺跡である『姫路城』、その大天守部分を改修する工事『天空の白鷺』が2014年1月にその作業を終了した。来年の工事完了が待たれている姫路城は、今でも多くの観光客に愛されている観光地としても親しまれている。そんな姫路城について考察していこう。